DULL-COLORED POP

vol.17『演劇』俳優ロングインタビュー:堀奈津美

ひた走る12歳の衝動。出会いは小学6年生。

演劇を始めたきっかけから教えて頂けますか?
演劇を始めたきっかけは、小6の時に渋谷区の芸術鑑賞教室で観た劇団四季のミュージカル「魔法をすてたマジョリン」がとってもエキサイティングだったからです。ああ、もうとってもキラキラしてる。みんなかっこいい!って思って、それがどうしても忘れられなかったんです。
それじゃあ、そのミュージカルを観た時からすでになりたいって思ってたんですか?
はい。思っていたんですけど、中学校には演劇部がなかったので、小学校から引き続きブラスバンド部でフルートを吹き続けてました。原宿で役者の事務所にスカウトされて、これで演劇出来る!って舞い上がったりもしたんですよ。でも当時色々あった事務所だったので両親に「そんな怖いの、やめなさい!」って大反対されて、入れず。なので、演劇が出来る高校を狙いました。最初は私立の関東国際高校って言うミュージカルを学べるところに行きたくて、体験入学もしてみたんですけど、 年間100万かかるのはちょっと……となり、よしもうそうなりゃ都立で演劇が活発なところはいってやるぞーってなって必死に探して、都立駒場高校をみつけて、めっちゃ勉強して受験して受かって、いよいよ、やり始めたぞっていう感じですね。
やり始めて、もうやっとやれた! って感じですか?
そうです! やっとやれた!わーいわーいやったやったー!!!みたいな。
高校演劇ってどういう作品を演られたんですか?
有名な作品だと、引退公演鴻上尚史さんの「スナフキンの手紙」をやりました。一年生の時は、オリジナル作品の方が大会に通りやすいからと言って先輩が書いたものを演りました。科特隊のお話。
科特隊?
ウルトラマンのオレンジの服着た人達のお話。 最近は怪獣が出ないから仕事が無いんだーって言って、最終的に自分たちで怪獣を作り上げて戦いに行きますって言う感じのちょっと怖いお話。それで一応、地区大会は越えて都大会まで行きました。その時は怪獣オタクでいつも塩ビの怪獣フィギュアを握りしめてる相馬光さん役でしたね。二年生の時は扉座の「新羅生門」を演りました。私、扉座大好きだったから嬉しかったんだけど、「ケーン、ケーン」って鳴きながら 桃太郎について行くキジ役でした。高校でずっと演劇をやって大学に入ってもさらに頑張るぞ!と思ってたんだけど、一度目の受験で日大の文理学部って言う演劇とは関係ないところしか受からなくて。これはやべえとなって仮面浪人しまして。学芸大……一番行きたかったけども受かんなくて、第二志望で受かった明治の演劇学専攻に行って 、そこで谷くんに出会いました

怖くて怖くて、近づかないようにしよ!明治大学にて。

谷さんに会った時の印象は?
怖~い。騒動舎の人怖い。ほんと騒動舎怖かったんですよ。
騒動舎、塚越健一さんの話にも出てきましたよね。
塚さんの時とはまた世代が違ったんだろうけど、まだまだウブだったんで、「セックス!セックス!騒動舎!」とか言ってる人がクラスにいると思うと怖くて怖くて『近寄らないようにしよ!』って思ってました。
それでは、堀さんは別のサークルに入っていた?
明治の演劇サークルはどれもピンとこなくて、でも早稲田のサークル入ったら留年しちゃうって思ってどうしよう、と迷いに迷ってたんです。そしたら高校演劇で一番熱くやり合った友人に、「早稲田の映画サークル超面白いよ!映像演技も嫌ってないでやってみようよ!」と誘われて、実際行ったら熱い人たちが沢山いたので、役者として入ってみました。
舞台をやりたくて映像は避けていた?
映像にはそれまでは全く興味がなかったんですよね。やってみたらやってみたで楽しかったんですけど、ぶつ切り感がすごい難しいなあと思って……。
映像サークルにいながらも舞台がやりたかったと。
演劇学専攻って実技がなくて歴史ばかりやるから、サークルの方にばかり行っていたんですよ。演技が出来るから。三年生になってようやく実技の授業があって、岸田國士の作品をやれることになって、やっとお芝居久々に出来る! 楽しい!って思ってて。私は「留守」っていう作品をやったんですけど、発表会的な授業の時に谷くんは「葉桜」をやってて、それがすんごく笑えて泣けたんですよ。あれれ、うわ、ちょーおもしれえなあ!この人怖くなかったかもしれないと思いましてね。クラスメイトの怖い人はとても面白かったんだと気づいたんです(笑)
そこから谷さんが劇団やるから一緒にやろうって話になったんですか?
いやその前に、谷率いる有志で岸田國士の作品をもう一回やりたいとなって、キッドアイラックアートホールでやったんです。若いながらにいい企画だったなって思って。その直後留学する谷くんに『劇団立ち上げるんだったら、絶対一緒にやりたいから誘ってね』と言って。帰国後、明治大学文化プロジェクト「マクベス」を経て、いよいよ彼が劇団起ち上げますってなって。そして初めてDULL-COLORED POPの舞台に立つことになりましたね。

DULL-COLORED POPと、3913日

堀さんは谷さんと一番付き合いが長いと思うんですけど、谷さんの作品についてはどう思いますか?
私はやっぱり、劇団でやっている作品の方が好きなんですよね。約十一年共に劇団で過ごしているから身内贔屓になっている可能性は大いにあるけれど。でもやっぱり彼が劇団でやっている作品性の方が好み。それに加えて、私あんまり賢くないから外部の難しいお話とか結構分からなかったりするんですよね(笑)
「ウィトゲンシュタイン※1」は一回目に観た時にはもう難しくて難しくて。二回再演はとても分かりやすかったので「すごい面白かったよ!すごい分かりやすかったよ!」ってケンケン(大原研二)に伝えたら、「なっちゃんが分かってくれただけで良かったよ」って言われたんですけどね。やっぱり私は劇団作品の、バカみたいなこと沢山盛り込みつつ、隠していた鋭いナイフで突き刺す、みたいな感じがすごく好きなんですよ。言葉が拙すぎるけれど。
一番好きな作品ってありますか?
「サイコシス※2」はやっぱり好きですね。活動休止作品で、なんと主宰とのガチンコ二人芝居でした。言葉でどうにも形容しがたいけれど、あの時期自体、自分がはちゃめちゃにキリキリしていて超アグレッシブで、敵は全員なぎ倒してやるぞー、みたいな感じではありましたけど。
それは女優と言う職業に対してですか?
舞台に立つことそのもの、ですね。毎ステージが本当に、戦いで、終わった後はもう空っぽすっからかんの状態になる。毎回その繰り返しでした。今は、その頃のキリッキリさに比べればだいぶ丸くなったと思うけど、出来ればおばあちゃんになっても演劇を続けていたいと思うから、なるべく自分に素直でいよう。と思ってるんですけどね。でもやっぱり「サイコシス」は今でも舞台に立つときの指針になる作品です。他で印象深い作品は、「ベツレヘム精神病院※3」ですね。あの時に初めて、ダルカラードポップってこういう色かもっていうのが見えた瞬間があって。『鈍色だけど何かとてつもなく綺麗なんだよね』みたいなのが、涙とか怒りとか苦しみとかの向こうに見えた気がしました。 印象深い作品です。
一回活動休止して再開して、第二期になってからは第一期と違いますか?
人が違うと全然違います。第一期とは結構別ものだと感じます。
一期を知ってる身としては抵抗感とかなかったですか?
最初はありました。他の人達はみんな谷くんが連れてきた人間だから、 私は全くアウェイで、どうしよう?っていう期間が長くて……ようやくですよ。今、ようやく同じ景色が観れてきた気がするな……って思う。 今思えば、若い頃は同じ景色って割と見やすかったのかなと。大人になると言葉を言うことも大分慎重になってしまうものだろうし、第二期メンバーは、それぞれでやってきた演劇的土壌や文化が全然違うから、喧嘩はしなかったし異文化交流的な歩み寄りの難しさってのはありましたね。 集まる人間によって、劇団ってこんなに変わるんだなと思いました
演劇を高校の頃から続けていて途中やめたいと思ったことは?
やめようとしたことはあります。大学受験は就職のために普通の学科に行かなきゃなって。でもいざ引退公演の千秋楽を終えた後、実家で晩御飯の石狩鍋食べてたら、涙が止まらなくなっちゃって。これで一生演劇終わりなんだなあって思って。次の日の朝職員室に走りこんで、顧問の先生に「やっぱり、演劇が演りたいです」って言ったら「ちょっと恥ずかしいから外に出ようか」って言われて(笑)でも、一緒に演劇学科あるとこ探そうって……なんかスラムダンクみたいな感じですね。
その後はやめようとは思わずに?
そうですね。思ったことはないですね。
劇団自体もやめようとは思ったことは?
それはもちろんありますよぉ。ふ、ふ、ふ……。十一年ですからね、色んなことがあります。
他の仕事やろうと思ったことはありますか?
一時期、カメラマンで色んな劇団さんのフライヤーを撮ったり、写真集を出版したりした時期に あれ、こっちをやった方がいいのかなって思ったことはありますね。
カメラはいつから?
写真って楽しいって思ったのって演劇と同じタイミングで小六の時。興味は同時期にスタートしていて。最初は趣味で空を撮る程度で、人間を撮るのが何故か嫌いだったんです。でも大学に入ってダルカラに関わり始めてから、人を撮る事に興味を持ちましたね。ダルカラに出る可愛い子たちを撮り始めて、人間撮るのってすごく楽しいって思うようになりました(笑)
今も写真を撮ってらっしゃると思うんですけど自分としては女優が本職?
そのつもりです。(用意してきたメモを見ながら)「 演劇の同時性は何にも代え難い。その場で演じてる人が居て、その場でハラハラドキドキして観ている人が居て、演る人も観る人も同じ酸素を吸ってるのがいい。 写真もとても好きだけど撮った時と見た時とはタイムラグがあるし、編集可能なものと不可能なものとは比べられない」……うん、まとめたものとトークのテンションが違いすぎる。でもその通りで、発信者と受信者が同じ時を共にするってすごい魅力だと思うんです。
同時性、同じ場所にいて感じるのがいい?
たまに写真撮ってると、その撮ってるところが見ていて面白いって言われることがあるけど、見せたいのはそれじゃないし!撮った作品だし!って思う。熱を感じられるのも、汗を感じられるのも……その場の方が断然素敵だよねって最近すごく思うんですよね。 例えばさっきの稽古でももちゃん(百花亜希)がただはちゃめちゃに叫んで走り回って疲れ果ててグタってなったっていうのすら、とても感動的なんだなって思います。 でもそう思い始めたのは実はここ1年くらいなんですよね。

第二期DULL-COLORED POPの魅力に感化され……

自分ではそういうのはやらないってことですか?
やらない……と言うか、やれなかったんです。恥ずかしいと思って、そんなの必要ないと思って、やれなかったんだけど。 「漱石※4」の時に、「ここはももちゃんぽくやって」との演出指示が入った箇所があって。「ももちゃんぽく」って自分の引き出しにひとっつもなかったから、一人でいくら考えてももうどうにも取っ掛かりすらわからなかったので、とうとう勇気を振り絞って「ももちゃん先生……教えて下さい……!」って言ったんです。それがきっかけで、今まで十数年避けて通ってきた何かに遂に足を踏み入れたんです。だから本当、やろう、やってみなきゃ駄目だ、とトライし出したのは本当ここ一年くらい。つい最近ですよね。 だからようやくそこに来て、「私この仲間たちから沢山盗まなきゃいけない」って思いました。遅い!もったいない!それにしても、もしかしたら第二期ダルカラでの私のターニングポイントはこの「漱石」の時だったのかもしれないって今気づきました。 自分自身の殻を破る戦いの期間が、随分長かったなぁ。と、つくづく思います。
若い頃と最近では結構変化があるんですかね?
若い頃は「私は絶対すごい人なんだ!」って思ってました。でもそれってある意味視野が狭くなってる状態なんではないかって。そういう時期には出来なくて今なら出来る人物像ってのは絶対沢山あると思うんです。 ある程度「自分はこれっぽっちです」って思っている今。今の方が「いや、そこから一つ抜け出たい!ももちゃん(百花亜希)みたいに動きたい!とか、梨那(中村梨那)のあの機敏だけど妙な動きが出来るようになりたい!とか、ケンケンみたいに超絶怒鳴ってみたい!とか、えいてぃ(東谷英人)のような飄々とした面白さはどうやれば出来るんだろう?とか 塚さん(塚越健一)のあの異様な……年の功だけでは絶対ないであろう壮絶な雰囲気、一体どうすれば出せるのかしらん、とか。色んな人の特質を盗みたい、と思うようになった今だからこそ、挑戦出来る役の幅はすごい広がったように思いますね。
俳優としての目標ってありますか?
すんごい迫力のある役者になりたいです。
迫力があるって言うのはどういう?
結局、全身全霊で汗かくっていうことに繋がる気がします。燃え尽きるまでずっと全力みたいな。けんけん演じる部長※5とか本当すごかったと思うんですよ。あとついさっきまで稽古場で繰り広げられていたエチュードで、ももちゃんとまやちゃん(小角まや)がもう倒れるんじゃないかっていうくらい汗だくになりながら跳ね回っていたのもとってもすごいと思う。汗に嘘は絶対ないですからね。セーブと言う言葉を知らない、すごい勢いのある、すごい本物の人がそこにいるって思われるような役者さんになりたいな。
それは自分が観ててもそういう人がいいなって思うから?
有無を言わさない俳優さんはやっぱり好きですね。以前、シアターコクーンで観たお芝居にキムラ緑子さんが出てらして、ほんとにヤ◯ザの親玉のおばちゃんみたいな肝っ玉な役を演ってらしたんですけど。実際はすごいお綺麗な方だしまさかそんな喋り方ももちろんしないし。私はその舞台で初めてキムラ緑子さんを観たので、もう「ああ!こんなに人って変わるんだ、こんなに迫力って出せるんだ、こういう人になりたい!」って思いました。
そういう人になれるにはどうしたらなれると思いますか?
今からでも、もっと一杯汗をかいた方がいいんだと思います。あ、実際その舞台でキムラ緑子さんは汗かきまくる役ではなかったですけど。「汗をかく=嘘でない本物の状態である」っていう過程を沢山沢山経たら、いつかあの境地にたどり着けるのではないかって思います。
若い頃はそういう風にはしてこなかった?
してこなかったです。 格好良くやろうとしてました。綺麗にやろうとしてました。可愛くやろうとしてました。それじゃあかん!って気付いたのがつい最近です。「漱石」の取っ掛かりにはじまってようやく「ゆめあ※6」辺りで、本当にそれは素晴らしいのだと確信して、今に至ります。
それでは今、活動休止するのは余計に残念じゃないですか?
残念この上ないです。今後、一人でもトライしていかなきゃいけないって思います。

劇場全体と呼吸を共に出来る。やっぱり小劇場が好き。

小劇場は好きですか?
小劇場はとっても好きです。大劇場のミュージカル……「スウィーニー・トッド」とかめっちゃ格好いいな~っと思ったけれど、やっぱり小劇場の距離感が好きですね。 大劇場だと表情が見えないから構図とか動きの派手さばっかりに目が行ってしまう。私が覚えているのは、俳優の息遣いだったり一瞬曇らせた表情だったり、近くに居て感じられる五感なんですよね。「マジョリン」観た小六の時の「わ~格好いい!わ~すごい!」みたいな感じとは今となってはだいぶかけ離れてますね。谷くんの外部作品で言えば、「モリー・スウィーニー」は少し大きめの劇場だったけれど、俳優さんの表情の1つ1つや息遣いがつぶさにわかってとても素敵でした。やっぱり人を、生で、近くで感じたいです。
演じてる時に観客はどのように見えてますか? 全然見えてない?
結構見ちゃうタイプですね。誰がどんな顔してるかな?とか、うわ今めっちゃ集中してるとか、あっ、駄目だこりゃとか(笑) 駄目だこりゃってなってる時は、どうやったら集中してもらえるかしら?とか、瞬時に脳内コンピューター働かせちゃいますね。
そういうのって感じられるものなんですね、芝居やってて。
そうですね……そういった感覚へのアプローチは、時間堂に客演した時に学びました。まず自分に集中。次に相手に集中。その次に空間全体に集中。最初はどういうことだろうって思ったけれど、それがわかった時は突然世界が広がったような感じがしました。結局最後の、空間全体に集中ってのには、その劇場空間を埋めてくれているお客様皆様含まれるわけです。どの瞬間も一緒に呼吸していたいと思って、客席空間に意識を傾けることは割とたくさんあります。
先ほど渡邊りょうさんと話していて呼吸の話になったんですけど、 やっぱり演劇において呼吸って大事なものなんですか?
とっても大事だと思います。 人は誰しも呼吸してますからね。その呼吸を一緒に出来るって、とても素敵なことなんじゃないかなって思います。
それはお客さんの呼吸も感じて?
たぶん、こっちも貰ってるんですよね。エネルギーを。役者ってすごい弱いものだから……一緒に楽しんでくれてると思うと励みになって、より集中力を増すみたいなところがあります。そしてその逆もしかりなんです。だから、お客様と、作品が、一緒に呼吸出来ている演劇は、とても素晴らしいと思う

演劇を創作する時、世界は断然ビビットになる。

では、堀さんにとって演劇が必要な理由ってなんですか?
今生きていて、演劇はずっと変わらず好きだから、やりたいものはやりたいです。公演と公演の間隔があいているときは、心が安定してる分見える景色も薄色だけど、演劇を創作している時って断然世界がビビットカラーに見える。偶然ここ半年ぐらい空いたんですよ、「くろねこ※8」から今回の「演劇」まで。そうすると、安穏として暮らせはするけれど、まあ安穏としているだけだなっていう毎日で。ただただ過ぎていく毎日をなんとなく手を振りながら見送る生活というか。だから久々に創作活動をしていることが幸せ。ひとつの世界を、信頼できる人間たちと作っている時の方が圧倒的に日常生活で気付くことが多いんだなって思う。洗い物をしててもこの水の渦巻きがなんたらかんたら……とか考えるし、行き詰っている時すごい変なポージングが出てきてこんなこと日常じゃやらないけど、これここで使えるかもとか……興味の対象の幅が段違いで増すことでこの人生が豊かになるなって……やっていない時よりやっている時の方が、私にとっては豊かな人生歩んでるなって、思います。
演劇をやっていない自分って想像出来ますか?
想像は出来ます。OLさんになって丸の内とか汐留とかに通うって選択肢もきっとどっかにはあったし、出来ただろうなとは思っています。でも、生活がなかなか安定しない演劇の道は苦しいけれど、この道を通ってよかったなと、思いますね。
社会にとって演劇が必要な理由ってなんだと思いますか?
生で見られる“物語”ってやっぱり強いと思う。目の前でなんかでっかい感情を持ってる人間を見るという体験は、テレビや映画や写真なんかの切り取られた世界で見るそれより100万倍も力強いことだと思うんですね。技術や道具や環境のサポートが最小で感動出来る芸術だと思う。生で精一杯汗かいている人を見るのはとても価値がある。スポーツを生で見ても、素敵な汗は見られますけどね。
確かにスポーツも、生で見たら圧倒的なものがありますよね。
ですよね。でもやっぱり、“物語”を通して、人間の精一杯を目の当たりに出来るのは、演劇だけだと思います。
この質問「社会にとって演劇が必要な理由ってなんだと思いますか」って質問、難しいですよね。
確かにあんまり深く考えたことなかったです。でも、やっぱり人間にとって、演劇がある人生の方が、キラキラした人生だなって思う。
劇団ってどういう風に思ってます? 入っている方がいいものですか?
私、学生時代以外ずっと劇団に入っているようなものだから。 ダルカラも第4回目から入ってますし。比べ方がわからないかも。
フリーという選択は? 劇団に入る方がいいですか?
劇団は好きですね。フリーはほぼやったことないから分からないですけど……。あ、でも(前回の)活動休止期間は、ほぼフリーみたいなものか……。それはそれで楽しかった気がするけど、その一公演だけではなく、ずっと一緒に考えていける人たちがいるって言うのは、とってもいいなって思う。地方公演があるたびに、言葉通り同じ釜の飯を食ってきたりもした。そういう仲間は、とっても尊いです
今回の作品「演劇」っていうタイトルを聞いた時はどう思いました?
あっマジかー!って思いました。 あっキター!って……!(仮)が取れただけだったって思いました。 すごいチャレンジを今回我々はすることになるんだなって思って。怖いなって思ったけど、やるっきゃねーな、と、思いましたね。
演劇って何だと思います?
演劇? ……キラキラ……(笑)すごい馬鹿っぽい答えになっちゃった! でも、演劇は、どんな時でも、人にとってキラキラした存在であって欲しいなって思います。自分が最初に好きになった時のように。5年ダルカラを続けてみてどうですかって言う質問で、私、血を交えたすごくいい比喩を思いついたんです!
(またメモを見る)「人間が変わると、劇団のカラーも変わるなってのをすごく感じた。 第一期DULL-COLORED POPは喧嘩してしてし倒した感じ。 若者特有の熱にうなされてる感覚がずっと続いていて、血で血を洗う……みたいな。 第二期DULL-COLORED POPは既に大人の個人たちが谷賢一に寄せられて、集まってきた感じ。 演劇に誠実に引き寄せられた輪っかみたいな……時間をかけて同じ輸血を受けてきた感じ。」 あ(笑) 駄目だ、結局うまいこと言えなかったようです……。
輸血っていうのは血を分けた?
はい、切磋琢磨しつつ、同じ血になろうぜみんな!って気持ちだった気がするなって。
他の劇団はどうなんですかね?
本当に。他の劇団はどうなんでしょうね……? お家にはお家の事情が、あるんでしょうね……。
今回の作品についての意気込みを……
意気込み! もう、なれるものには何でもなろう、やれることはなんでもやろう、裏切り続けよう、そう思います。今を生きてる限り出し得るパワーを全部絞り出してぶん投げきる作品。超大作にします。キラキラした演劇にします。 あれー、やっぱりなんだか頭良くない感じだー。インタビュー受ける直前に、通りすがりのケンケンに「格好良く答えようと思ってんだ!」って言ったら 「絶対そんなの無理に決まってんじゃん」って言われて、悔しいからたっくさん話盛ってやろうと思ってたんだけど、 やっぱり私はキラキラとかそういう言葉の方が好きだなんだな結局って。難しい言葉一杯考えてみたんですけど、どれもしっくりきてないなって気付きました。 キラキラでズタズタでボロボロだけどキラキラ。 みんな、もう、生きるしかないんだね!!みたいな作品にします。よっしゃあ、みとけよー!!!
それでは、最後に谷さんに一言。
演劇を一生続けてください! いつかまた会おう。
脚注
※1 テアトル・ド・アナールvol.2『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』
※2 DULL-COLORED POP 第9回公演「心が目を覚ます瞬間 ~4.48サイコシスより~」
※3 DULL-COLORED POP 第4回公演「ベツレヘム精神病院」
※4 DULL-COLORED POP 第15回本公演「夏目漱石とねこ」
※5 DULL-COLORED POP 第13回本公演「アクアリウム」で大原研二が演じた部長刑事
※6 DULL-COLORED POP「全肯定少女ゆめあ」(15minites made vol.13参加作品)
※7 「モリー・スウィーニー」原作 ブライアン・フリール 翻訳・演出 谷賢一
※8 DULL-COLORED POP 第16回本公演「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」